依存症に負けない大人の習慣化のコツ

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3.習慣化への依存症の利用


 前のページで述べたように、悪習慣の元になる依存症を止めて、正しい生活習慣を形成するのに、正しい生活と結びつく問題ない依存対象を利用することができる。その具体的な習慣化の例を、私が経験した2つの事例で説明してゆく。

事例1)挨拶の習慣づけ

 これは、私が過去に勤めていた会社での事例である。私がいた職場では、モラル低下の問題として、毎朝の出勤時に、社員同士が挨拶を交わさないという状態が続いていた。社員同士すれ違っても、目を合わせずに通り過ぎることが多かった。
 
 私もそのような社員の一人だった。みんな挨拶してないし、自分だけ挨拶するのも面倒で、毎朝挨拶せずに過ごしていた。その一方で、挨拶せずに人とすれ違う度に、モラルに反した行動を取っていることへの罪悪感を感じていた。
 
 そのような状態に耐えかねて、私は、出勤時にすれ違う人すべてに声を出して挨拶することを決心した。恥ずかしい、面倒だという気持ちを抑えて、ある朝から毎日実行してみた。最初の朝、挨拶しても返事が返ってこないことが多かった。 

 それでも、声を出して挨拶することで、挨拶していないこと対する自分の心の中の罪悪感はすぐに消えた。そして、少なくとも自分だけは正しい行動をしているという優越感と、道徳的に正しいことしているという安心感が混ざった気分の良い状態になった。

 気分が良くなると、もはや挨拶すること自体は何の苦もなく、毎朝、当たり前のようにできるようなった。そしてすれ違う人たちも、常に私から挨拶を掛けられているうちに、おそらく罪悪感に耐えられず、挨拶を返してくれるようなった。

 この事例の挨拶をしないという悪習慣は、挨拶しないことで得られる、手間や面倒を一時的に逃れることができたという一種の快楽を積み重ねるうちに、挨拶しない行為が依存症化したものだ。さらに、職場の雰囲気に逆らいたくないという気持ちが、この悪い習慣形成を後押ししている。しかし、この快楽は、挨拶を避ける度に感じる罪悪感と常にセットになっている。そのため、この悪習慣は、快楽を得る依存対象としてはかなり弱いものである。

 この事例では、みんなが罪悪感を感じている中、私は毎朝の挨拶という正しい行動をすることで、優越感や安心感という一種の快楽を感じた。毎朝の挨拶で得られるこの快楽に依存することで、挨拶せずに弱い快楽と罪悪感を得ることを諦め、挨拶する正しい習慣を身につけることができたわけである。

事例2)早起きの習慣づけ

 私は元々夜型の人間で、朝がとにかく弱かった。当時勤めていた会社は、朝8時10分に到着しないと遅刻になってしまうのだが、いつも朝7時半まで寝ていた。目覚まし時計は6時半にセットしているが、アラームが鳴ると寝ぼけた状態で切ってしまい、また寝てしまう。7時半に起きて、そこから急いで朝食をとり、身支度して、車を約15分運転してギリギリ会社に駆け込むという生活を繰り返していた。

 朝食は味わって食べるという感じではなく、前日の夜にコンビニで買ったサンドイッチやおにぎりをジュースでお腹に流し込む感じだった。身支度はとにかくパジャマから着替えるだけで、髪はボサボサのまま、かろうじて歯磨きだけはやった。そのあとは、車を運転しながら備え付けのブラシで髪を整える感じだった。いつもギリギリ出社するので、上司からは良く思われていなかった。

 いつも車を運転しながら、もっと早く起きて余裕を持って出勤したいと思っていたが、どうしても眠気に負けてギリギギまで寝る習慣を続けていた。

 そんな生活を続ける中、ある日、テレビで早朝のウォーキングを習慣づけると、早起きになれるし健康にも良いという趣旨の放送を見た。早起きを習慣づけたかった私はそれを見て、とりあえず一回、早朝ウォーキングを試してみることにした。めざまし時計を朝6時にセットし、アラームがなったらとにかく起きて、そのまま近所を3km歩くことにした。

 テレビを見た翌日、6時に起床。半分寝ている状態で立ち上がり、そのまま家の外に歩き出した。出だしはフラフラの状態だったが、10分も歩くと目が冴えてきて、周りの景色がはっきり見えるようになった。朝日に映えて周りの山々が綺麗に見えた。吸い込む空気も新鮮で、とても気持ちの良い感じになった。ウォーキングはランニングと違って息が苦しくなることは全くない。

 結局、約40分歩いて家まで戻ってきた。家についた時には体もポカポカで、眠気もなく、気分がすごく良い状態だった。その後の朝食はゆっくり味わって食べることができた。軽い運動後で、良い感じにお腹が空いていたので本当に美味しかった。それからゆっくり身支度して、いつもより30分早く出勤することができた。なんとも言えない、ゆとりを感じることができた朝だった。

 ただ歩くだけで、朝が気分の良いものなる。私はそんなウォーキングが大好きになり、毎日行うようになった。そのおかげで早起きの習慣が身につき、時間に余裕も持って出勤できるようになった。

 朝ギリギリまで寝てしまう悪習慣は、睡眠という快楽が、当時の朝の時間帯では唯一の快楽であったため、毎朝の習慣として根付いてしまったものだ。この事例では、眠るという快楽を、ウォーキングで得られる爽快感や、出勤までの心のゆとりが上回ったことで、この悪習慣を止めることができた。この爽快感やゆとりも一種の快楽である。これらの快楽を繰り返し感じようと、良い意味の依存症としてウォーキングを繰り返すようになり、早起きの習慣を身につけることができた。



依存症を克服し、正しい生活態度を習慣化する方法とコツがわかるサイト。双子の犬(ハンドルネーム)のエッセイ第2弾。