5.事例から見える習慣化のコツ
前の2つのページでは、習慣化に依存症と恐怖症を利用した事例を紹介した。事例を踏まえて、依存症と恐怖症を習慣化に利用するコツを以下にまとめる。
依存症利用のコツ
習慣化で依存症を利用し易いのは、改善したい悪習慣の動機が弱い場合だ。事例の2つのケースでは、職場のモラルが低下して朝の挨拶を誰もしない、早起きが苦手で出勤ギリギリまで寝てしまうといったものが悪習慣だった。本来やりたい正しい行動はわかっているし、その行動を実行すること自体、大して手間を要するものではない。ただ、雰囲気的になんとなく、面倒臭くて実行できないだけだ。
このようなケースでは、ちょっとしたきっかけで正しい行動を習慣づけられる。挨拶の事例では、良心の呵責に耐えかねたことが行動のきっかけであったし、早起きの事例では、たまたまテレビで朝のウォーキングの番組を見たことがきっかけだった。
実際に行動を起こすと、正しい行動をすることの良さをすぐに実感できる。挨拶のケースでは、正しい行動を取ることで、罪悪感を取り除き、安心感を得ることができた。早起きのケースでは、早朝のウォーキングで爽快感を感じるとともに、朝食を味わったり、ゆっくり身支度して出勤できる心のゆとりを手に入れることができた。
この安心感、爽快感、ゆとりといった感情は一種の快感である。その快感の強さが、悪習慣の元になる、面倒を避けて得られる弱い快感を上回った。そして、良い意味で、正しい行動を取ることが依存症となり、その行動は習慣として固定していった。
子供の頃から教え込まれる道徳であったり、多くの人が良いと勧めることは素直を一度実行してみることが肝心である。それらは、過去に多くの人が実施し、メリットを実感していることである。そう言った実績があるからこそ、誰でも一度やっただけですぐに、その良さを実感できる。
正しい行動がわかっていて、その行動を実行するのに大した準備や手間が要らないなら、勇気を出してすぐにやってみる。そして、その行動の良さを実感してみることが大事である。一度その行動の良さを実感できれば、その行動を習慣化させることは容易になる。
恐怖症利用のコツ
習慣化で恐怖症を有効に使えるのは、強い依存状態にある悪習慣を断ち切る場合だ。事例の2つのケースでは、喫煙、ラーメンを夜に高頻度で食べることを悪習慣として取り上げた。このような嗜好物の摂取は、脳の快楽中枢に作用して強い依存状態を作り出すので、その行為を簡単には止められない。
特に薬物依存やアルコール依存のような、ひどい禁断症状が出るようなものは医療機関を受診し、医師の強制力を持って治療するしかない。
そこまでいかないケースでは、悪習慣の問題行動を行うことに対し、自分が実感出来る何らかの恐怖心を心に植え付けることで、自力で悪習慣を断ち切ることが可能だ。
事例では、強烈な二日酔いで体験した気持ち悪さの記憶が恐怖となり喫煙を止めた。また、胆石症の発作の痛みに対する恐怖が、夜にラーメンを食べる習慣を止めさせた。いずれも、そのものを摂取することによる快感を上回る恐怖心を実感することで、悪習慣を断ち切ることができた。
しかし、自分が行う特定の行動に対して、恐怖心を心に植えつけるのは簡単なことではない。その行動の結果として、事故や病気を経験すれば、ラーメンを食べて胆石の発作を起こした事例のように、すぐに恐怖心を心に植え付けられる。ただし、そのような状況は頻繁には訪れないだろう。
それでも、事故や病気までいかないまでも、その行動が度を越し、快感ではなく不快感を感じることはよく経験するだろう。事例の二日酔いのケースは、飲み会で、まさに度を越して飲酒と喫煙をしたことで気持ち悪くなった例だ。
そのような不快感を感じる機会があったら、タイミングを逃さず、すぐに依存症を断ち切る行動を開始すべきだ。不快な記憶が強く残っているうちに、その行為をしたいという衝動を不快な記憶で抑え、行為を中止する活動を始めることが重要だ。そして、依存行為をしない状態を一気に習慣づけることだ。時間が経って不快な気持ちが薄れれば、依存行為を我慢することはできなくなってしまう。
習慣化では、依存症、恐怖症どちらを利用するにしても、思い立ったらすぐに行動を開始し、一気に正しい習慣を固めてしまうことが肝心だ。周囲からの強制力が働かないプライベートな習慣化では、短期間に集中して取り組むやり方がベストだ。期間が長くなると、日々の生活の中で多くの誘惑に接しているうちに、悪習慣を再開してしまう危険性が増してしまうからだ。